メットライフ生命「#老後を変える」編集部 2017.12.8この記事の所要時間:約7分

「おばあちゃんのいないおばあちゃんち」をつくる

仕事があるし、子どもの学校もある。今すぐ都市生活をやめるのは現実的ではないけれど、本当は自然豊かな田舎で暮らしてみたい……。そんな思いを抱えている方もいるのでは? 今回お訪ねしたのは、“平日は東京・週末は千葉県南房総で暮らす”という二地域居住を2007年から実践している馬場未織さんです。

金曜日の夜になると、子どもたちや猫たちを車に乗せ、街明かりのまぶしい都心を抜けて房総半島南端部の里山にある、築120年の家へ向かいます。週末は草刈りや畑仕事にいそしみ、子どもたちと野山で遊び、古民家で雑魚寝をして、土の恵みを車にどっさり積んで東京の家に戻る、という「農的」週末を過ごしている馬場さんは、今では友達から「一皮むけば農家のおばちゃん」と言われているそうです。

きっかけは、無類の生き物好きだった息子さんの好奇心を尊重してあげたい、という親心だったとのことです。

「私自身は都会生まれ、都会育ちで何の疑問も持たずに大人になったのですが、『ママ、この図鑑の虫はどこにいるの? 本物が見たい、知りたい!』という息子の視点に立つと、都心は子どもにとって与えてあげられるものが少ない環境だということに気付きました。夫婦とも実家が東京で帰省する田舎もないため、それならば“おばあちゃんのいないおばあちゃんち”をつくろうか、と思うようになったのです」

 

週末を南房総で過ごす馬場さんご家族 週末を南房総で過ごす馬場さんご家族

 

汗を流し、命を育み、命を頂く、リアルで鮮やかな週末

週末田舎暮らしをするための土地を探すこと3年。ようやくほれ込んだ土地を見つけたところ、農地や山林を合わせて8,700坪という広大な敷地で、草刈りや山林の世話をイチから学ぶことになった馬場さん一家。

当初は“二地域居住”という言葉もほとんど浸透しておらず、親族や知人からは「往復時間もお金もかかるし、疲れたり飽きたりして、続かないんじゃないか」と心配されたそうです。ところが実際は、週末ごとに田舎暮らしがカットインしてくるライフスタイルが、心にも体にもよい刺激とリズムを与えてくれたのか、想像以上に魅力的な日々を過ごすことができているといいます。

「例えば、畑で採れた野菜を使った料理を食卓に並べると、一緒に野菜の世話をしてきた子どもたちとの会話が弾みます。ほんの5分前に採ってきたソラマメをその場で茹でて食べると、びっくりするほど甘いのです。「『うわあ!おいしい、育ててよかった。草むしり頑張ったからね!』『えっ、やってたのは私だけじゃない』などと笑い合っていると、あっという間にカゴいっぱいのソラマメがなくなります。ご近所さんから頂いた野菜を持って帰って食べるときも、その方の顔が思い浮かんだりして。食事の喜びが倍増します」

 

格別の味がするという、採れたてのソラマメ 格別の味がするという、採れたてのソラマメ

 

また、週末に野良仕事をして汗を流すようになったことで、運動不足が解消できたと実感されているそうです。

「もちろん草刈りは大変ですが、お金を払ってジムに通う代わりだと思えば、土地がきれいになるし草刈りのスキルは上がるし一挙両得(笑)。まわりの農家さんたちは、ご高齢になっても毎日元気に野良仕事をしていて、歳の若い私が一番だらしないくらい。平日はパソコンの前に座りっぱなしの仕事をしているだけに、体を使って生きる暮らしが傍らにある価値は大きいと感じています」

おいしい物を食べるために高級な食材を買ったり、体を動かすためにスポーツ施設に通ったりという消費型のライフスタイルでは、お金を払った分の対価以上のものは手に入らないこともありますよね。けれど田舎暮らしをしていると、ふとした出来事の中にも目的以上の喜びや発見がある、と馬場さん。

「もちろん、往復の交通費や2つの家の維持管理費など、二地域居住はお金もかかります。ただ、ずっと都市生活をしている場合でも、週末は習い事やレジャー、外食などの出費は出てくるものですよね。南房総で野菜をつくって食べたり、海に潜って魚を見たり、夕日を眺めたりという楽しみ方をする週末と、都市で過ごす週末。その差を比較すると、最終的にかかるお金にそれほどの差はありません」

限られた財源で何をし、何を得るか。さまざまな価値観がある中で、人生をより豊かに生きる選択肢としての二地域居住について、馬場さんは「“あり”じゃないかな? 私が11年続けているくらいだから」と笑います。

子どもだけでなく、大人も育てられる二地域居住

憧れはあっても「地域に溶け込むのが難しそう……」などの心配が先立つ方も多い田舎暮らし。実際、人間関係の難しさに苦労する場合もあるようですが、馬場さんの家があるのはわずか7世帯という小さな集落。地域の方々は、「久しぶりに子どもの声がしていいねえ」と一家を温かく受け止めてくれたそうです。年に数度ある集落の共同作業では、集落の方々と一緒に草刈りをしたり、用水路の掃除をしたり。そんな風に過ごす時間は彼女にとって、地域のさまざまなことを教えてもらえる、かけがえのないひとときなのだそうです。

「集落の人たちは大工仕事も車の修理も、野菜づくりも全部自分たちでできてしまいますから、私は教わってばかりです。都市生活で染み付いた“外注体質”のせいで、生活のスキルが誰よりも低くて。しかも、イノシシ被害や倒木、あぜ道での脱輪など田舎暮らしにはトラブルが多いのですが、毎回嫌な顔一つしないで手を貸してくれるご近所さんには頭が上がりません。『お互いさまだからよぅ』と言われるけど、こちらから助けてあげられることなんてパソコンの設定くらい(笑)」

 

里山学校の様子 里山学校の様子

 

お世話になっている集落の人々に何か恩返しができないものか、と考えた馬場さんは、都市生活者である立場を活かし、田舎と都会をつなげて「南房総のある暮らし」を広めるNPO法人南房総リパブリックを立ち上げました。過疎化、高齢化の進むエリアの課題を地域外の人たちとも共有し、共に未来をつくっていこうという志の下、親子参加の里山学校や農家さんとの交流イベントを通年で実施しています。地域のつながりはますます広がり、馬場さんにとって南房総は“もう一つの故郷”になりつつあるとのことです。「子どもたちを自然の中で育てたい、と思って始めた暮らし方だったのに、今となっては私自身こそ、ここで育てられてきたのかも」と、振り返ります。

「違いを楽しむ心」さえあればいい

実際に馬場さんの暮らしぶりを伺っていると、都市と田舎の暮らしを交互に重ねながら、生きることそのものを味わう日常を続けていくことこそが“二地域居住”なのだとわかります。

働く世代の方々の中には「老後、時間ができたら田舎に移住したい」そんな風に考えている方もいるでしょう。確かに、完全に移住してしまうと準備の時間やお金もある程度必要です。しかし二地域居住は、壮大な決心や大金、苦労を厭わず突き進めるパワーなど特別なものがなくとも、「明日から田舎でも暮らそうか」と思い立てば誰にでも、いつからでも始められるライフスタイルなのです。

「もし必要なものがあるとすれば、違いを楽しもうとする心でしょうね。自分の常識とは異なる価値観を受け入れたり、やったことのない体験をしたり、触れたことのない生き物たちに巡り合ったり。それらを拒否せず、むしろ出会いを楽しもうとすることができる人なら、二地域居住で人生をぐんと豊かにできると思います」

 

違いを楽しもうとする心が大事という馬場さん 違いを楽しもうとする心が大事という馬場さん

 

ちなみに、馬場さんの幼馴染2人は、それぞれ異なる動機、異なる場所で二地域居住をされているそうです。互いの暮らしぶりをSNSなどで見合っては「そっちのほうれん草の方が立派だね」「イモリを飼うことにしたけど餌はどうすればいい?」「今度カマドをつくりたいからお宅の粘土質の土をもらいに行くよ」などと交流し、「20年前に誰がこんな状態を想像しただろう!」と笑い合っているとのことです。都会での暮らしの傍らに田舎を持つ“二地域居住”という生き方は、意外な方向に人生の楽しさを広げてくれるものなのかもしれません。
将来的には完全な移住を考えている方も、まずは二地域居住から新しい生活を始めてみませんか?

 

馬場未織さん

 

<馬場未織さんプロフィール>

1973年東京都生まれ。1996年日本女子大学卒業、1998年同大学大学院修了後、千葉学建築計画事務所勤務を経てライターへ。2014年株式会社ウィードシード設立。プライベートでは2007年より家族5人と猫2匹、その他そのときに飼っている生き物を連れて「平日は東京で暮らし、週末は千葉県南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践。東京と南房総を通算約300往復以上する暮らしの中で、里山での子育てや里山環境の保全・活用、都市農村交流などを考えるようになり、2011年に農家や建築家、教育関係者、造園家、ウェブデザイナー、市役所公務員らとともに任意団体「南房総リパブリック」を設立し、2012年に法人化。現在はNPO法人南房総リパブリック理事長を務める。メンバーとともに、親と子が一緒になって里山で自然体験学習をする「里山学校」、里山環境でヒト・コト・モノをつなげる拠点「三芳つくるハウス」の運営、南房総市の空き家調査、空き公共施設の再生事業などを手掛ける。著書に『週末は田舎暮らし ~ゼロからはじめた「二地域居住」奮闘記~』(ダイヤモンド社)、『建築女子が聞く 住まいの金融と税制』(共著・学芸出版社)など。

 

 

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Posted: December 8, 2017