メットライフ生命「#老後を変える」編集部 2017.11.17この記事の所要時間:約7分

一度きりの人生を、より豊かにするために取り入れたい「マインドフルネス」

最近メディアなどでよく取り上げられる“マインドフルネス”。耳にしたことがあるという方も多いのではないでしょうか。マインドフルネスを実践することで「ビジネス効率が上がった」「発案力が上がった」など話題になり、多くの企業が取り入れています。そうしたマインドフルネスの手法や結果に対しての注目が集まっていますが、本質はそこではありません。実は一生に1度の人生を、より豊かなものにするためにあるようです。そこで、禅僧であり精神科医でもある川野泰周先生に、マインドフルネスについてお話を伺いました。

「マインドフルネス」とは、“自分をありのままに受け入れる”こと。

マインドフルネスは“マインドフル”な生き方をするというのが本質だと川野先生は言います。
「ただ、“マインドフルな生き方をする”だけですと意味がわかりませんので、呼吸瞑想やお香瞑想、私の発案したつり革瞑想などのメソッドを実践することで、マインドフルな状態を感じ取れるように手法を提示しているのです」と、あくまで方法論であると続けます。

マインドフルネスを医学の治療として体系化したのがマサチューセッツ大学のジョン・カバットジン博士(以下、カバットジン博士)。それを「MBSR=Mindfulness-Based Stress Reduction(ストレス低減法)」と言い、ここからマインドフルネスのやり方がいくつかリスト化されたそうです。

もともとマインドフルネスというのは“禅”の精神が基になっているそうで、カバットジン博士も禅僧の崇山行願さんを強く慕い、指導を受け、本を読み、さまざまな影響を受けて体系化していったそうです。

「自分という存在をありのままに受け入れてあげる。これがマインドフルネスの始まりであり、それを現代に伝えてきたのが『禅』です」と川野先生は仰います。

“禅の修行”と聞くと、少しでも動くと警策(けいさく)でバシッと叩かれるようなイメージがあるかもしれませんが、厳しすぎない、甘すぎないという“中道”の精神が仏教の本質なのだそうです。

「堕落しすぎもしないけれど、厳しく自分をいじめる事もしない。自分という存在をありのままに受け入れてあげる。これがマインドフルネスの始まりなんです。6年間、厳しい修行をしても悟りを開けなかったブッダも、自分に対して目を向けた瞬間、悟りを開いたという仏教の教えがあります。自分を大切にした事で、自分への慈悲の気持ちに気づけたのです。これが、“自分を大事にする”という仏教の基本であり、マインドフルネスの始まりなんです」

もともと2500年ほど前からあったともいわれる仏教の教えを、カバットジン博士が工夫をし、世界中どんな人でも取り入れられる瞑想のメソッドとしたのが、マインドフルネスの始まり。「つまり、マインドフルネスの本質は『禅』や『仏教』と同じなんです」と川野先生は仰います。

“禅”や“瞑想”が世の中で注目されるようになった背景とは

近年、“禅”や“瞑想”が世の中で注目されるようになった背景が3つあると先生は仰います。
その3つとは「精神医学・心理学の話」「脳科学の話」「禅の話」であり、マインドフルネスはちょうどその3つが重なる中心に位置するものだと仰います。

 

マインドフルネスのイメージ

 

「まず1つ目は、現代人の脳が疲弊しているという精神医療学的な背景です。昔と違い、現代人の働き方はマルチタスクであり、インプットされる情報が多すぎるのです。マルチタスクな働き方をすると、脳は『マインドワンダリング』という心がさまよった状態になる現象が起きて、脳の中のエネルギー効率が非常に悪くなり、疲弊します」と川野先生。

 

疲弊している男性

 

脳は一つの事に集中しているときは疲れないようにできていますが、明日の会議のことや企画のこと……いろいろ考えていると集中できず、脳の特殊な機能が押し上げられ、脳のエネルギー効率が非常に悪くなるのだそうです。

「2つ目は、脳画像研究が一気に進んだ脳科学的な背景にあります」と川野先生は続けます。

脳画像研究が一気に進み、MRI画像に、脳のどの部分が活動しているのかが色付きで、リアルタイムで描出できるようになったそうです。

「脳には何も活動していない時でも常に活動している機能があり、これをDMN(デフォルトモードネットワーク)と呼びます。その名のとおり、外部刺激に即座に対応するためにデフォルトで活動している部位で、なんと6~8割もの脳内エネルギーを消費するとされています」と川野先生は脳の仕組みを解説します。

「進化したMRIで調べたところ、瞑想して呼吸に集中している時というのは、それまで過剰になっていたDMNがピタッと安定化されたのです。常に消耗され続けている状態をたった5分間止めるだけで、その分のエネルギーが蓄えられるのです」

川野先生はこのことをわかりやすくハイブリッド車に例えて説明してくださいました。

「ガソリン車は止めたら消費がゼロになるだけですが、ハイブリッド車は、停車している際、どんどんエネルギーが電池に蓄えられていきます。5分間瞑想して何になるの? という意見も最初のうちはありましたが、今はエネルギーの蓄積と効率の改善が見込めるという事がわかってきたこともあり、徐々に受け入れられ始めていると思います」と川野先生。

「3つ目は、禅の精神でもある自分と向き合うことにより、ストレスが軽減されていくことにあります。自分が何かに悩んでいるという事に気づかず、ずっとその漠然とした悩みの中にいると、どんどん心が消耗されていきます。ところが、悩んでいる自分と向き合い『私はあの時に起きたあのことに後悔しているんだ』と特定の悩みにフォーカスがあたることで、その悩みはどんどん解消されてゆくのです」

マインドフルネスは、自分を受け入れることにつながるため、自己存在を肯定していくことにもなるのだと川野先生は力説されています。「自分の存在価値など悩みの間で揺れることなく、能力・財産、自分に何があっても、何がなくても、自分の存在を慈しむことができます。仏教の世界で大切にされる慈悲の念から派生して、近年ではその心を自慈心と呼びますが、自慈心を持つことではじめて、他人にも慈悲を分けてあげられることができるようになります」と、マインドフルネスの本質的な考えを教えてくれました。

お金や名誉に縛られない。老後もありのままの自分で人生を豊かにするためのマインドフルネス

「“マインドフルネスで、ビジネス効率が上がる”などの効果をうたっているものはたくさんありますが、それが本質ではないと思っています」と川野先生は強調します。

「どんな偉人も、歳をとることを避けては通れません。老後はそれまでに自分が築いてきた企業の役職であったり、何かの専門職であったりという肩書を取り去って生きていくことになります。その時いかにオープンに周囲とかかわれるかによって、老後のクオリティが全然違ってくるのです」と川野先生は続けます。

「いつまでも自分の肩書にしがみついている方は、老後に孤立する傾向が多く見られます。孤独死するタイプの方には、現役時代に上役だった方がたくさんいらっしゃるように感じます。老人ホームに入っても、誰とも交流せず、一人でポツンといるような方は自尊心だけで、自分を大切にする心が欠けているということもあるのです」と自尊心だけではなく、自慈心を持つことが大切と説明してくれました。

では、老後に自分らしく、周囲の人と楽しく生きていくにはどうしたら良いのでしょうか。

 

インタビュー中の川野泰周先生

 

「『この地位まで上りたい』という目標があったとして、それだけを目的として頑張ると達成できなかったときの喪失感が非常に大きいのです。結果主義の方はその間の過程を自分で評価ができず、目標に到達できたかどうかだけで判断してしまいがちです。そうすると達成できなかった自分を受け入れられないわけですね。本当は色々な経験をして、多様なスキルを身に付けていったことにこそ価値があるのに、そこに目を向けられなくなってしまうのです」

マインドフルネスを始める動機として、“もっと自分の能力値を高めたい”とか“心を強くしたい”という目的があっても構わないと川野先生は仰います。

「ただ、瞑想中だけはその意識を捨てなければいけません。今、目の前にある事だけにすべての神経を注ぐことがマインドフルネスです。“自分がどのぐらい能力アップしているかな”などと考えながら瞑想していても、何も変化は起きません。若いうちから目の前の事を一生懸命楽しむことに長けている人というのは、老後になって地位や名誉など様々なものを失っても、その時、目の前で起きていることを楽しめる人になれます。今日は隣のおじいさんとしゃべろう、近所の子どもが遊びに来たらそれだけで楽しい1日になった、といった感じです。多少効率が悪くても、目の前の事を精いっぱい楽しむことができたら、えてして、人間は幸せだったりするのかもしれません」

ありのままの自分でその時を楽しみながら豊かな人生を送るために、マインドフルネスは私たちに大きなメリットをもたらしてくれそうです。この本質を理解し、川野先生にお聞きした今すぐ実践できる「瞑想術」5選をご覧いただき、ぜひ日常生活でマインドフルネスを実践してみてはいかがでしょうか。

 

川野泰周先生

 

<川野泰周先生プロフィール>
精神科・心療内科医/臨済宗建長寺派林香寺住職
精神保健指定医・日本精神神経学会認定精神科専門医・医師会認定産業医。
1980年横浜市生まれ。2004年慶應義塾大学医学部医学科卒業。臨床研修終了後、慶應義塾大学病院精神神経科、国立病院機構久里浜医療センターなどで精神科医として診療に従事。2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職となる。現在寺務の傍ら都内及び横浜市内のクリニック等で精神科診療にあたっている。
うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入している。またビジネスパーソン、医療従事者、学校教員、子育て世代、シニア世代などを対象に幅広く講演活動を行っている。著書に「あるあるで学ぶ余裕がないときの心の整え方」(インプレス)、「悩みの9割は歩けば消える」(青春出版社)「ストレスから心と体を守るマインドフルネス実践法」(日経BP社)、「脳がクリアになるマインドフルネス仕事術」(インプレス)。共著・監修多数。

 

 

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Posted: November 17, 2017